は全く夢中になつて啀《いが》み合はざるを得ない。自分の如きは晝夜戰爭にでも出てゐる氣持で勉強した。殆んどもう何年級などといふことには頓着無く、教科書ばかりでは飽足らず、「少國民」「幼年雜誌」などといふ雜誌をも取寄せて耽讀し、つゆほどの知識をも見逃すまじと備へた。
所が初太郎は突如として、その村の小學校を去つて(彼はその頃、尋常科の補習部にゐた)縣廳所在地の宮崎町の高等小學に轉じた。自分との啀《いが》み合ひが無かつたのならば當然彼は土地の尋常科補習部を卒業したままで、靜かにその山村生活に入るべきであつたのである。
取殘された自分は、さらばといふので舊藩主の城下たる延岡町の高等小學に進んだ。兩個の少年は遠く三十里の平原を距てゝ尚ほ且つ力み合つてゐたのである。高等小學二年を修業して自分が其土地の中學校へ入つたころは、初太郎は既に中學の二年級であつた。彼の勉強はその地方の評判に上る位ゐになり、勉強《べんきやう》狂人《きちがひ》と人は評し合つてゐたといふ。勿論自分も勉強した。一時は級の首席をも占領し、可なりに勉強家といふ評判をも取つてゐた。けれどもさういふ時期は極めて短かかつた。中學の二年級
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