分もよく彼に馴染《なじ》んで、無二の親友であつたのだが今云ふ如く自分の反對黨のために推されて、その旗頭の地位に立つに及び小膽者の自分は飜然《ほんぜん》として彼を忌み憎み、ひそかに罵詈《ばり》中傷の言辭を送るに忙しかつた。
 それやこれやで、初太郎の自分に對する感情も以前《もと》の通りであることは出來難くなり、自然自分を白眼視《はくがんし》するに至つた。なほそれで止らず、この感情はわが一家と彼の一家との間に關係するに至つた。その頃、博奕《ばくち》で儲けあげて村内屈指の分限《ぶげん》であつた初太郎の父は兼ねて自分の父などが、常々「舊家」といふを持出して「なんの博勞風情が!」といふを振※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]すのが癪《しやく》に障つて耐《たま》らなかつた所であつたので、この一件が持上るに及び、忽ち本氣《むき》になつて力《りき》み出した。そして萬事につけ敵愾心《てきがいしん》を※[#「插」でつくりの縦棒が下に突き抜けている、第4水準2−13−28]むに至つた。小さな村のことではあり、このことは延《ひ》いて一村内の平和にも關係を及ぼさうかといふ勢になつた。で、當の兩個《ふたり》
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