がよく讀めたと云つては、ありもせぬ小道具の中などから子供の好きさうなものを選り出して惜しげもなく自分に呉れてゐた。飮仲間の父に對つてはいつも自分のことを賞めそやして、貴君《あなた》は少し何だが、御子息はどうして中々のものだ、末恐しい俊童だ、精一杯念入にお育てなさるがいゝ、などと口を極めて煽《おだ》てるので、人の好い父は全くその氣になつてしまひ、いよいよ甘く自分を育てた。
學校に於ける大立者は常に自分であつた。自身の級の首席なるは勿論のこと、郡長郡視學の來た時などの送迎や挨拶、祝日の祝詞讀みなども上級の者をさしおいて、幼少の矮小の自分が獨りで勤めてゐた。で、自づと其處等に嫉妬猜疑の徒が集り生ぜざるを得ない。そしてその組の長者と推薦せられたのは、矢野初太郎といふ一少年であつた。
初太郎は自分に二歳の年長、級も二級うへであつた。その父は博勞《ばくらう》で、博徒《ばくちうち》で、そして近郷の顏役みたやうなことをも爲てゐた。初太郎はその父とは打つて變つた靜かな順良な少年で、學問も誠によく出來た。田舍者《ゐなかもの》に似合はぬ色の白い、一寸見には女の子のやうで身體もあまり強くなかつた。以前は自
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