かにも好いらしく、一寸見たゞけでも自分もこの女を可愛く思つた。今は半分|盲目《めくら》のその子の祖父《ぢい》に仕へて羨しいほど仲睦じく暮して居るといふ。自分はその子を抱いてみた。割合ませ[#「ませ」に傍点]た口を利く。なるほど見れば見るほど氣味のわるいまで亡き友に酷似《こくじ》して居る。自分の心の奧にはあり/\と故人の寂しい面影が映つてゐた。
自分の病氣は二ヶ月あまりで辛くも快くなつた。それを待つて暇を告げて自分は郷里を去つた。いよ/\明日出立するといふ前の晩、兩人の親と一人の子とは、臺所に近い小座敷で向き合つて他人入らずの酒を酌んだ。そのころ、山の深い所だけにこゝらの天地には既う秋が立つてゐた。言葉數も少なく、杯も一向に逸《はず》まぬ。座の一方の洋燈には冷やかに風が搖《ゆら》いで居る。此ごろでは少し飮めばすぐに醉ふやうになつてゐる父が、その夜は更に醉はない。
『お前、一體そのお前の學校を卒業すると何になれるのだとか云つたな?』
暫く何か考へてゐて彼は斯う問ひかけた。
『左樣ですね、まア新聞記者とか中學校の教師とかでせう。』
『すると何かい、月給でいふとどの位ゐ貰へるのかい?』
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