い子供を抱いて笑ひながら二階に上つて來た。不思議に思つて見て居ると、母は自分の枕もとに坐つて、その子を自分の方に押し向けて、なほ笑つて居る。田舍者の産んだらしくもない可愛らしい男の子だ。
『何處の子です?』
 と訊くと、
『それ、あの初さんのだよ。』
 といふ。自分は驚いた。いつの間に初太郎は斯んなのを産《こさ》へておいたのであらう。聞けば彼の病氣の烈しかつた時一生懸命になつて彼を看護した彼の家の下女が是を産んだのだ相だ。彼女《かれ》は初めはどうしても誰の子であると言はなかつたさうだが、幾月も經《た》つてからとうとう打明けて了つたといふ。何故かくしておいたかと訊いたら、肺病人の子と知れたらとても眞人間扱ひはせられないだらうと思つたからだと答へるので、それなら何故ずつと隱し通さなかつたと重ねて訊くと、日が經つに從つて段々死んだ人に似て來るからだと言つた相だ。初太郎は自身の子を見ずに死に、勿論子は永久にその父を知らない。自分は急に逢ひたくなつて用事に來て居るといふその子の母を見に下に降りて行つた。色こそ可なりに白けれ、頬骨の太い眉の太い鼻の小さな唇の厚い、夥しく醜い女である。けれども心はい
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