もう間に合はぬから、何日までに細島港の船問屋日高屋に宛てゝ、手紙を出せばそれを受取つて汽船に乘る、と、いつて來てあつたのです。やれ嬉しやとあれを考へこれを考へ、土産物の種類を三つも四つも書きたてゝ、ツイ昨日細島港あてに手紙を出したところだつたのです。
得意氣に、わたしがその土産物の名を竝べたてゝてゐると、武ちやんは默つてそれを聞いてゐましたが、やがて考へ深さうな顏をしてわたしに言ひました。
『繁ちやん、それアお前《め》も一緒に從《つ》いち行きね。行《い》た方がいゝが、……土産物《みやげもん》どん貰《もろ》ちよつたちつまらん。それア行たほがよつぽづいゝが……』
これを聞くと、わたしは愕然としました。まつたく喫驚《びつくり》しました。今まで全然氣のつかなかつた一大事を、いま突然教へられたやうな驚きであつたのです。忽ち胸はどきどきとしだしましたが、それもすぐ納りました。
『でも、試驗があるぢアねエけ』
『試驗どま、どうでむいゝが、お前はゆう[#「ゆう」に傍点](能く[#「能く」に傍点]の意)出來なるとぢアかに、先生が落第やさせならんが』
これを聞くと、わたしの胸はまたどき/\とし始めま
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