褪《あ》せながらいつまでも咲いてゐるのはわびしいものである。然し私は花よりも寧ろ實を見るのを好む。まんまろい青いのが黒い樣な枝に幾つとなくくつ着いてゐるのは愛らしい。それこそ子供たちの背丈にも及ばぬ小さな木の青葉の蔭に十も二十もなつてゐるのがある。これが黄ばんで自づと落ちる頃もいゝ。
 枇杷。この木を植ゑると家に病人が出るといふので細君など盛んに反對したが、二三本植ゑた。もう少しで實の色づくころである。この木の花は寒に咲く。そしてよくその花のそばに眼白鳥が啼いてゐる。
 桃。元來この地所は昨年まで桃畑であつたので普請《ふしん》をする時殘しておけば幾本でも殘しておけたのだが癪にさはる事がありみな伐つてしまつた。それでも隅々に十本位ゐは殘つてゐる。天津桃とかいふので、味はわるいが大きな肉の眞紅な桃である。が、あくどい花といひ、袋をかぶつた實といひ、桃は要するに子供たちの持ちである。
 山櫻の實。櫻のうちで私は山櫻を最も好む。そしてこの木は普通にはない。吉野染井などならば幾らでも手に入るのだが、私はわざ/\富士の裾野の友人に頼んで其處の山から三四本掘つて來て貰つた。中の一本が痩せてはゐるが相
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