にあがつた鰺《あぢ》の三杯など。
 蜜柑。これも先づ果物として考へ易い。硬い樣な、黒い樣な葉のかげにまんまろくうす赤い實のなつてゐるのを見るのもわるくはないが、柿や柚子と違つて何となく冷たい。
 柚子、柿、蜜柑、夏蜜柑、いづれもみな今が花どきである。
『晝はさうでもないが、夜は蜜柑の花の匂ひで庭はたいへんネ』昨日か、妻が言つてゐた。夜はわたしは庭までも出たことがない。然し晝間は三四度づつも此等の木の間をさまよふ。
 柘榴《ざくろ》もいまたくさんな蕾をつけて居る。一本はやゝ古木《こぼく》、一本はほんの若木である。古木の方は實柘榴《みざくろ》だが、わか木の方は花柘榴らしい。たくさんついてゐる蕾が甚だ大きい。柘榴の實は見るべきである。枝にあるもよく、とつて來て机の上にころがすもよい。
 梨は先づ花だけであらう。これは普通枝を棚にわたさせ、棚の下に幾つもの實が垂れてゐるといふものであるが、惜しいかなみな紙袋をかぶらされる。私は棚にもせず、袋もかぶせず、出來るなら松の木位ゐの大きさに伸び、頭大の實を結べよと祈らるゝのだが、わが庭の梨の木はまだわが長男中學一年生のたけに及ばぬのである。
 杏《あん
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