たちの聲につれて沒書になつた歌の原稿の上に書き始めた。
 かき、みかん、もゝ、くり、ざくろ、なつみかん、なし、りんご、ぶだう、さくらんぼ、うめ、びは、ぐみ、ゆず、だいだい、あんず、はだんきやう、ゆすらうめ、の十八種に問題のやまざくらの實をも數へる事に話はきまつた。
『ほゝウ、隨分たくさんあるのねヱ、うれしい/\』
 私自身も一寸意外であつた。數へれば斯んなにもなるのか、と思つた。漸く昨年の春から集めだしたものである。
 柿と栗は何よりも私のほしいものであつた。たべものとしてもだが、柿はその枝ぶりが好く、栗は落葉のなかに落ちてゐる姿が見たかつた。甘柿二三本、澁は七八本もあるであろう。もつとも中にはまだ三四尺のたけのもあるのである。甘柿の熟れるのを待つて齒をあつる味はあれはまつたく秋のはじめの味である。水氣《すゐき》あるがごとく無きがごとく、甘味《かんみ》あるがごとくなきが如くたべてもせい/″\一つか二つ位ゐのところ、甘柿の味はまつたく初秋のものである。圓き、平たき、やゝとがれる、まだらな青き、まつたく熟れたる、枝に在る、手に持てる、實の形も愛すべきものである。甘柿は早く紅葉し早く落つる。
前へ 次へ
全10ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
若山 牧水 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング