倍もあるような真黒なものが降りてきた。よく見ると、それには盥《たらい》のような眼玉が二つ、クルクルと動いていた。畳一枚ぐらいもあるような翅《はね》がプルンプルンと顫動《せんどう》していた。物凄い怪物だッ!
「先生。恒温室の壁を破って、あいつが飛び出したんです」
「君は見たのか」
「はい、見ました。あのお持ちかえりになった卵を取りにゆこうとして、見てしまいました。しかし先生、あの卵は二つに割れて、中は空《から》でした」
「なに、卵が空……」博士はカッと両眼《りょうがん》を開くと、怪物を見直した。そして気が変になったように喚《わめ》きたてた、「うん、見ろ見ろ。あれは蠅だ。タンガニカには身長が二メートルもある蠅が棲《す》んでいたという記録があるが、あの卵はその蠅の卵だったんだ。恒温室で孵化《ふか》して、それで先刻《さっき》からピシピシと激しい音響をたてていたんだ。ああ、タンガニカの蠅!」
 博士は身に迫る危険も忘れ、呆然《ぼうぜん》と窓の下に立ちつくした。ああ、恐るべき怪物!
 このキング・フライは、後に十五万ヴォルトの送電線に触《ふ》れて死ぬまで、さんざんに暴れまわった。


   第二話
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