蠅
海野十三
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)小春日和《こはるびより》の
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)唯今|摂氏《せっし》五十五度に
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小春日和《こはるびより》の睡《ねむ》さったらない。白い壁をめぐらした四角い部屋の中に机を持ちこんで、ボンヤリと肘《ひじ》をついている。もう二時間あまりもこうやっている。身体がジクジクと発酵《はっこう》してきそうだ。
白い天井には、黒い蠅《はえ》が停っている。停っているがすこしも動かない。生きているのか、死んでいるのか、それとも木乃伊《ミイラ》になっているのか。
それにしても、蠅が沢山いることよ。おお、みんなで七匹もいる。この冬の最中に、この清潔な部屋に、天井から七匹も蠅がぶら下っていてそれでよいのであろうか。
そう思った途端《とたん》に、耳の傍でなんだか微《かす》かな声がした。ナニナニ。蠅が何かを咄《はな》して聴かせるって。
ではチョイト待ちたまえ。いま原稿用紙とペンを持ってくるから……。
オヤ。どうしたというのだろう。持って来た覚えもないのに、原稿用紙とペンが、目の前に載ってい
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