るぞ。不思議なこともあればあるものだ。――
第一話 タンガニカの蠅
「あのウ、先生。――」
と背後《うしろ》で声がした。
クリシマ博士は、顕微鏡《めがね》から静かに眼を離した。そのついでに、深い息をついて、椅子の中に腰を埋《うず》めたまま、背のびをした。
「あのウ、先生」
「む。――」
「あの卵《らん》は、どこかにお仕舞いでしょうか」
「卵というと……」
「先日、あちらからお持ちかえりになりました、アノ駝鳥《だちょう》の卵ほどある卵でございますが……」
「ああ、あれか」と博士は始めて背後へふりかえった。そこには白い実験衣をつけた若い理学士が立っていた。
「あれは――、あれは恒温室《こうおんしつ》へ仕舞って置いたぞオ」
「あ、恒温室……。ありがとうございました。お邪魔をしまして……」
「どうするのか」
「はい。午後から、いよいよ手をつけてみようと存じまして」
「ああ、そうか、フンフン」
博士はたいへん満足そうに肯《うなず》いた。助手の理学士は、恭《うやうや》しく礼をすると、跫音《あしおと》もたてずに出ていった。彼はゴム靴を履いていたから……。
そこでクリシマ博士は、
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