だよかったのであるが、更に更に、身体は小さく縮《ちぢ》まっていった。私はキャラメルの箱に蹴つまずいて、向う脛《ずね》をすりむいた。馬鹿馬鹿しいッたらなかった。そのうちに、私は不思議なものを発見した。それは一匹の豚《ぶた》ほどもある怪物が、私の方をじっと見て、いまにも飛びかかりそうに睨《にら》んでいるのだ。
「なにものだろう!」
私は首を傾けた。そんな動物がこの部屋に居るとは、一向思っていなかったのだ。
しかしよく見ると、その怪物は大きな翅《はね》があった。鏡のような眼があった。鉄骨のような肢《あし》があって、それに兵士の剣のような鋭い毛がところきらわず生えていた。私はそのときやっとのことで、その怪物の正体に気がついた。
「ああ、こいつは、私の先刻《さっき》殺した蠅の仔なのだ」
仔蠅にしては、何という大きな巨獣《きょじゅう》(?)になったのであろうか。
その恐ろしい仔蠅は、しずしずと私の方に躙《にじ》りよってきた。眼玉が探照灯《たんしょうとう》のようにクルクルと廻転した。地鳴りのような怪音が、その翅のあたりから聞えてきた。蓮池《はすいけ》のような口吻《こうふん》が、醜くゆがむと共
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