に、異臭のある粘液がタラタラと垂《た》れた。
「ぎゃーッ」
 私の頭の上から、そのムカムカする蓮池《はすいけ》が逆さまになって降って来たのだ。私の横腹は、銃剣のような蠅の爪《つめ》でプスリと刺しとおされた。
「ぎゃーッ。――」
 そこで私は何にも判らなくなってしまった。その仔蠅に食われたことだけ判っていた。不思議にも、何時《いつ》までも何時《いつ》までも記憶の中にハッキリ凍りついて残っていた。



底本:「海野十三全集 第2巻 俘囚」三一書房
   1991(平成3)年2月28日第1版第1刷発行
初出:「ぷろふいる」
   1934(昭和9)年2月号〜9月号
入力:tatsuki
校正:花田泰治郎
2005年5月26日作成
青空文庫作成ファイル:
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