は、極めて貴重な秘薬《ひやく》が入っているのだった。赤レッテルの方には生長液《せいちょうえき》が入って居り、青レッテルの方には「縮小液《しゅくしょうえき》」が入っていた。これは或るところから手に入れた強烈な新薬である。私はこの秘薬をつかって、これからちょっとした実験をして見ようと思っているのだ。
私は赤レッテルの壜の栓を抜くと、妻楊子《つまようじ》の先をソッと差し入れた。しばらくして出してみると、その楊子の尖端《せんたん》に、なんだか赤い液体が玉のようについていた。それが生長液の一滴《いってき》なのであった。
私はその妻楊子の尖端を、蒸発皿の方へ動かした。そして親蠅《おやばえ》がとりついている蜂蜜の上に、生長液をポトンと垂《た》らした。それから息を殺して、私は親蠅の姿を見守った。
ブルブルブルと、蠅は翅《はね》をゆり動かした。
「うふーン」
と私は溜息をついた。蠅はしきりに腹のあたりを波うたせている。不図《ふと》隣りの仔蠅の方に眼をうつした私は、どンと胸をつかれたように思った。
「呀《あ》ッ。大きくなっている!」
仔蠅の身体に較べて、親蠅はもう七八倍の大きさになっているのだ。
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