着た雑誌記者らしいのとが肩を並べて立っていた。
「これがその男です」と、制服の監視人が部屋の中の彼を指して云った。「妻を殺して、窓の外にその死体を埋めてあるように思っている患者です。この男は何でも前は探偵小説家だったそうで、窓から蠅が入ってくると、それから筋を考えるように次から次へと、先を考えてゆくのです。そして最後に、自分が夢遊病者《むゆうびょうしゃ》であって、妻を殺してしまったというところまで考えると、それで一段落《いちだんらく》になるのです。そのときは、いかにも小説の筋が出来たというように、大はしゃぎに跳《は》ねまわるのです。……強暴性の精神病患者ですから、この部屋はこれまでに……」


   第七話 蠅に喰われる


 机の上の、小さな蒸発皿《じょうはつざら》の上に、親子の蠅が止まっている。まるで死んだようになって、動かない。この二匹の親子の蠅は、私の垂《た》らしてやった僅《わず》かばかりの蜂蜜に、じッと取付いて離れなくなっているのだ。
 そこで私は、戸棚の中から、二本の小さい壜をとりだした。一方には赤いレッテルが貼ってあり、もう一つには青いレッテルが貼ってあった。この壜の中に
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