そして尚《なお》もしきりに膨《ふく》れてゆくようであった。
「ほほう。蠅が生長してゆくぞ。なんという素晴らしい薬の効目《ききめ》だ」
 蠅は薬がだんだん利いて来たのであろうか。見る見る大きくなっていった。三十秒後には懐中時計ほどの大きさになった。それから更に三十秒のちには、亀《かめ》の子束子《こだわし》ほどに膨《ふく》れた。私はすこし気味が悪くなった。
 それでも蠅の生長は停まらなかった。亀の子束子ほどの蠅が、草履《ぞうり》ほどの大きさになり、やがてラグビーのフットポールほどの大きさになった。電球ぐらいもある両眼《りょうがん》はギラギラと輝き、おそろしい羽ばたきの音が、私の頬を強く打った。それでもまだ蠅はグングンと大きくなる。こんなになると、蠅の生長してゆくのがハッキリ目に見えた。私はすっかり恐《おそ》ろしくなった。
 蠅の身体が、やがて鷲《わし》ぐらいの大きさになるのは、間のないことであろうと思われた。
(これはもう猶予《ゆうよ》すべきときではない。早く叩き殺さねば危い!)
 なにか適当の武器もがなと思った私は、慌《あわ》てて身辺をふりかえったが、そこにはバット一本転がっていなかった
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