数えていって、十匹まで数えたが、それからあとは嫌《いや》になった。十匹以上、まだワンワンと居た。
(どうして蠅が、こう沢山居るのだろう)
 彼はようやく一つの手頃な問題にとりついたような気がした。別に解《と》けなくともよい。気に入る間だけ、舌の上に載《の》せた飴玉《あめだま》のように、あっちへ転がし、こっちへ転がしていればいいのだ。さて、蠅がどうしてこんなに止まっているのか。
(ウン、そうだ……)
 そうだ。蠅はさっきまで一匹も壁の上に止まっていたように思われない。蠅が急に壁の上に殖《ふ》えたのは、先刻《さっき》の豪雨《ごうう》があってから、こっちのことだ。
(そうだ。雨が降って、それで蠅が殖えたのだ。どうして殖えたのだ?)
 窓には硝子板《ガラスいた》なんてものが一枚も入っていなかった。板で作った戸はあったけれど、閉めてなかった。この窓から、あの蠅が飛びこんできたのに違いない。しかし飛びこんでくるとしても、この夥《おびただ》しい一群の蠅が押しよせるなんて、彼がこの小屋に住むようになった一年この方、いままでに無いことだった。
(なぜ、今日に限って、この夥しい蠅の一群が飛びこんで来たのだ
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