棒を輪切りにして、その上に板をうちつけた腰掛の下から、一陣の風がサッと吹きだした。床に大きな窓が明いているのであった。とたんにどッと降りだした篠《しの》をつくような雨は、風のために横なぐりに落ちて、窓枠《まどわく》をピシリピシリと叩いた。密林がこの小屋もろとも、ジリジリと流れ出すのではないかと思われた。
流れ出してもよい。すべて天意のままにと彼は思った。
雨は、ひとしきり降ると、やがて見る見る勢《いきおい》を失っていった。そしてあたりはだんだん明るさが恢復《かいふく》していった。風もどこかへ行ってしまった。
やがてまたホンノリと、薄陽《うすび》がさしてきた。彼はまだ身体一つ動かさず、破れた壁を見詰《みつ》めていた。雨が上《あが》ったら、どこからか妻がキイキイ声をあげながら、小屋へ駈けこんでくるように感じられた。だがそれは、いつもの期待と同じように、ガラガラと崩《くず》れ落ちていった。いつまでたってもキイキイ声はしなかった。
壁を見詰めている彼の瞳の中に、なんだかこう新しい気力《きりょく》が浮んできたように見えた。壁に、どうしたものかたくさんの蠅が止まっている。一匹、二匹、三匹と
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