ただ気分の断層によって、やや疲れを覚えて来たばかりだった。
 博士は、白い実験衣のポケットを探ると、プライヤーのパイプを出した。パイプには、まだミッキスチェアが半分以上も残っていた。燐寸《マッチ》を擦って火を点けると、スパスパと性急に吸いつけてから、背中をグッタリと椅子に凭《もた》れかけ、あとはプカリプカリと紫の煙を空間に噴《ふ》いた。
(探険隊の一行が、タンガニカを横断したときは……)と博士は、またしても学者としての楽しい憶い出をうかべていた。
 タンガニカで、博士は奇妙な一つの卵を見付けたのだった。助手がさきほども、駝鳥《だちょう》のような卵といったが、全くそれくらいもあろう。色は淡黄色《たんこうしょく》で、ところどころに灰白色《かいはくしょく》の斑点《はんてん》があった。それは何の卵であるか、ちょっと判りかねた。なにしろ、この地方は、前世紀の動物が棲《す》んでいるとも評判のところだったので、ひょっとすると、案外掘りだしものかも知れないと思った。鳥類にしても、余程《よほど》大きいものである。それではるばる博士の実験室まで持ってかえったというわけだった。そして他の動物資料と一緒に、タ
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