「見ないがよかった。新兵器だなんていうものだから、つい見ちまった」
 一同は興《きょう》ざめ顔のうちに、まアよかったという安堵《あんど》の色を浮べた。
 そのとき入口の扉《ドア》が開いて、少年がズカズカと入ってきた。
「おや、貴様は何者かッ」
「誰の許しを得て入って来たか」
 将校たちに詰めよられた少年は、眼をグルグル廻すばかりで、頓《とみ》に返辞も出せなかった。
「オイ、許してやれよ」フョードル参謀が声をかけた、「いくら白軍《はくぐん》の新兵器が恐ろしいといったって、あまり狼狽《ろうばい》しすぎるのはよくない……」
「なにッ」
「そりゃ、弁当屋の小僧だよ」
「弁当屋の小僧にしても……」
「オイ小僧、ブローニングで脅《おどか》されないうちに、早く帰れよ」
 少年はフョードルの言葉が呑みこめたものか、肯《うなず》いて黒い函をとると、重そうに手に下げ、パッと室外に走り出した。
「なーんだ、本当の弁当屋の小僧か」
「いや小僧に化けて、白軍の密偵が潜入して来るかも知れないのだ」とマレウスキー中尉は神経を尖《とが》らした。
「油断はせぬのがよい。しかし卑怯《ひきょう》であっては、戦争は負けじゃ」
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