だ。多分お昼に食った俺《おれ》の皿が入っているだろう」
「なんだって、弁当の空《から》か?」
「どうして、それがこんなところにあるのか」
「イヤ、さっき弁当屋の小僧が来た筈なんだが、持ってゆくのを忘れたのじゃあるまいかのウ」フョードル参謀は云った。
「忘れてゆくとは可笑《おか》しい、中を検《しら》べてみろ」
「早くやれ、早くやれッ」
「よォし」とフョードル参謀は進み出た、「じゃ明《あ》けるぞオ」
一同の顔はサッと緊張した。軍団長イワノウィッチは、大刀《だいとう》を立《たて》て反身《そりみ》になって、この際の威厳《いげん》を保《たも》とうと努力した。
「よォし、明けろッ」
「明けるぞオ」
フョードルは、黒函《くろばこ》の蓋に手をかけると、音のせぬようにソッと外《はず》しにかかった。一同の心臓は大きく鼓動をうって、停りそうになった。
「……?」
蓋はパクリと外れた。
「なアんだ」
見ると、函の中には、白い料理の皿が二三枚|重《かさ》なっているばかりだった。皿の上には食いのこされた豚の脂肉《あぶらにく》が散らばっていて、蠅が二匹、じッと止《と》まっていた。
「ぷーッ。ずいぶん汚い」
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