い特別の原因がなくては起り得るものではない。――その原因を、わが研究室の宇宙線に帰《き》することは、極《きわ》めて自然であると思う。無論読者においても賛成せられることであろう。……
     *
 ――さて、前段の文章は、途中で切れてしまったが、まったく申訳がない。実は急に胸元《むなもと》が悪くなって、嘔吐《おうと》を催《もよお》したのだ。そして軽い脳貧血にさえ襲われた。私は皆の薦《すす》めで室を後にし、別室のベッドに寝ていたのだ。それからかれこれ三時間は経った。やっと気分もすこし直って来たので、起き上ろうかと思っていると、其所《そこ》へ友人が呼んでくれた医師が診察に来てくれた。
 その診察の結果をこれからお話しようと思うのであるが、読者は信じてくれるかどうか。多分信じて貰えまいと思う。といってこれが話さずにいられようか。
 いま私は起き上って、蠅の入った壜を手にとって見ている。あれから三四時間のちのことであるが、二つ頭の蠅が、俄然《がぜん》五匹に殖えている。異変は続々と起っているのだ。そして生物学的にみて、何という繁殖《はんしょく》の凄《すさま》じさであろうか。何という怪奇な新生児で
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