蠅は、最初壜に入れたときは二匹であったが、特別の装置に入れて置くために、だんだん子を孵《かえ》して、いまではこのとおり二十四五匹にも達している。この蠅の一群を、私は毎日毎日、丹念に検べているのだ。しかし私はいつも失望と安堵《あんど》とを迎えるのが例だった。なぜならば、蠅どもは別に一向異変をあらわさなかったから……。
 だが、今日という今日は、待ちに待った戦慄《せんりつ》に迎えられたのだ。それは、この壜の中に一匹の怪しい子蠅を発見したからである。その子蠅は、なんという恐ろしい恰好をしていたことであろうか。それははじめは気がつかなかったが、すこし丈夫になって、壜の上の方に匍《は》いあがってきたところを見付けたのであるが、一つの胴体に、二つの頭をもっていたのだ! 言わば双つ頭の蠅である。こんな不思議な蠅が、いまだかつて私共の目に止まったことがあろうか。いやいやそんな怪しげなものは見たことがなかった。おそらく、どこの国の標本室へいっても、二つ頭の蠅などは発見されないであろう。ことに目の前に蠅の入った壜を置いてあって、その中にこのような怪しい畸形の子蠅を発見出来るなどいうことは、著《いちじる》し
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