な大きな顔で笑った。
 そんなわけで、彼は間もなく、新邸《しんてい》の中にまたもう一つ新しく素晴らしいものを加えた。それは生々《なまなま》しい新妻《にいづま》であることは云うまでもあるまい。
 新世帯というのを持ったものは誰でも覚えがあるように、三ヶ月というものは夢のように過ぎた。妻君は一向子供を生みそうもなかった代りに、ますます美しくなっていった。やがて一年の歳月が流れた。その間《かん》、彼はあらゆる角度から、妻君という女を味わってしまった。そのあとに来たものは、かねて唱《とな》えられている窒息《ちっそく》しそうな倦怠《けんたい》だった。彼の過去の精神|酷使《こくし》が、倦怠期を迎えるに至る期限をたいへん縮めたことは無論である。彼はひたすら、刺戟《しげき》に乾いた。なにか、彼を昂奮させてくれるものはないか。彼は妻君が寝台の上に睡ってしまった後も、一人で安楽椅子《あんらくいす》によりながら、考えこんだ。白い天井を見上げると、黒い蠅が一匹、絵に書いたように止まっていた。それをボンヤリ眺《なが》ているうちに、彼は思いがけないことに気がついた。
「あの蠅というやつは、もう先《せん》にも、あす
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