福感に浸《ひた》った。いままでの変態的《へんたいてき》な気持がだんだん取れてくるように感じた。もうあの夜の映画観賞会には、なるべく出ないようにしようとさえ考えた。明るい生活がだんだんと、彼の心を正しい道にひき戻していったのだった。
 しかしそれと共に、彼はなんだか非常に頼《たよ》りなさを感じていった。淋《さび》しさというものかも知れなかった。血の通《かよ》っている身体でありながら、まるで鉱石《こうせき》で作った身体をもっているような気がして来た。なにが物足りないのだ。なにが淋しいのだ。
「そうだ、妻君《さいくん》を貰おう!」
 彼は、このスウィート・ホームに欠けている第一番のものに、よくも今まで気がつかなかったものだと感心したくらいだった。
 目賀野千吉は、彼の決心を早速会主に伝達した。
「ああ、お嫁さんなの……」
 と会主は大きく肯《うなず》いてみせた。
「いいのがあるワ。あたしの遠縁《とおえん》の娘《こ》だけれど。丸ぽちゃで、色が白くって、そりゃ綺麗な子よ」
「へえ! それを僕にくれますか」
「まあ、くれるなんて。貰っていただくんだわ。ほほほほ」
 と会主は吃驚《びっくり》するよう
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