日には、その病人の息の根が止まっていた。では、あの蠅の持っている黴菌《ばいきん》というのが、あの奇病を起させたのじゃないですか」
医学士は黙っていた。その答えは彼の領分《りょうぶん》ではなかったから。
大江山捜査課長も黙っていた。目の前に現われた事実が、帆村の予言したところと、あまりによく一致して来たので。
「さあ大江山さん」と帆村は捜査課長を促《うなが》した。「これから、あの蠅を採取した地区を探してみるのです。もっと大胆な推定を下すならば、犯人は沢山の蠅を飼育し、その一匹一匹に病原菌を持たせて、市民に移していったのです。犯人は、あの奇病の流行した地区の幾何学的《きかがくてき》中心附近に必ず住んでいるに違いありません。さあ行きましょう。行って、その間接の殺人魔を捉《とら》えるのです」
二人は病理学研究室を飛び出すと、すぐに自動車を拾った。いわゆる奇病発生地区の幾何学的中心地が、帆村の手で苦もなく探し出された。
二人が、チンドン屋の寅太郎《とらたろう》という、いつも手甲《てこう》脚絆《きゃはん》に大石良雄《おおいしよしお》を気取って歩く男を捉えたのは、それから間もなくの出来ごとだ
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