孵されたものだというのですね」と帆村が訊《き》きかえした。
「そういうところです。なぜそれが断言《だんげん》できるかというと、この蠅どもには、普通の蠅に見受けるような黴菌《ばいきん》を持っていない。極めて黴菌の種類が少い。大抵《たいてい》なら十四五種は持っているべきを、たった一種しか持っていない。これは大いに不思議です。深窓《しんそう》に育った蠅だといってよろしい」
「深窓に育った蠅か? あッはッはッはッ」と捜査課長が謹厳《きんげん》な顔を崩して笑い出した。
「その一種の黴菌《ばいきん》とは、一体どんなものですか」と帆村は笑わない。
「それが――それがどうも、珍らしい菌ばかりでしてナ」
「珍らしい黴菌ですって」
「そうです。似ているものといえば、まずマラリア菌ですかね。とにかく、まだ日本で発見されたことがない」
「マラリアに似ているといえば、おお、あいつだ」と帆村はサッと蒼《あお》ざめた。「いま大流行の奇病の病原菌もマラリアに似ているというじゃないですか。最初はマラリアだと思ったので、マラリアの手当をして今に癒《なお》ると予定をつけていたが、どうしてどうして癒るどころか、癒らにゃならぬ
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