った。その寅太郎の遂《つい》に自白したところによると、彼こそ正《まさ》しくその犯人だった。極左の一人として残る医学士の彼が、蠅に黴菌を背負わして、この恐ろしい犯行を続けていたことが明かになった。ねじけた彼にとって、市民をやっつけることは、またとない悦《よろこ》びだったのだ。彼が丹精《たんせい》して飼育したその毒蠅は、チンドンと鳴らして歩くその太鼓《たいこ》の中にウジャウジャ発見された。彼が右手にもった桴《ばち》で太鼓の皮をドーンと叩くと、胴の上に設けられてある小さい孔《あな》から、蠅が一匹ずつ、外へ飛び出す仕掛けになっていた。
 彼の検挙によって、例の奇病が跡を絶ったのは云うまでもない。


   第三話 動かぬ蠅


 好《す》き者《もの》の目賀野千吉《めがのせんきち》は、或る秘密の映画観賞会員の一人だった。
 一体そうした秘密映画というものは、一と通りの仕草《しぐさ》を撮ってしまうと、あとは千辺一律《せんぺんいちりつ》で、一向《いっこう》新鮮な面白味をもたらすものではない。そこで会主《かいしゅ》は、会員の減少をおそれて一つの計画を樹《た》てた。それは会員たちから、いろいろの注文を聞
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