んでいないではないか。
(どうも変だ!)佐伯船長は、小首をかしげた。
「おい局長、こんどは、信号の方向を測ってみなかったかね」
「はあ、測りました。方向は大体同じに出ましたが、前に測ったときほど明瞭《めいりょう》ではありません。その点からいっても、たしかに本船は遭難地点に近づいているにちがいないのですが――」
「そうか。じゃきっとそのへんに何かあるにちがいない。もっと念入りに探してみよう」
そういって船長は、甲板で働いている船員たちに、命令を出した。
「おい、見張員をあと五名ふやして、海面をよくしらべてみろ」
和島丸は、速力をおとした。そのかわり舳《へさき》をぐるぐるまわしながら、その辺一帶の海面を念入りに探照灯で掃射《そうしゃ》した。
だが、肝腎の遭難船の姿は、どこにも見えない。
遭難船の破片か、あるいは油とか、積んでいた荷物などが漂流《ひょうりゅう》していないかと気をつけたが、ふしぎにも、それすら眼に入らないのであった。
佐伯船長をはじめ、船員たちが、すっかりいらだちの絶頂《ぜっちょう》に達したときのことであった。舳から、暗い海面をじっと睨《にら》んでいた船員の一人が、と
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