て防戦しました。しかし、硝子戸《ガラスど》がこわされ、そこから黒豹らしいものがとびこんできたときには、もう駄目だと思いました。誰かが、悲鳴をあげました。残念だったのです。私たちは、卑怯なようだが、もうどうすることも出来なくて、船橋を逃げだしました。それから、一同、ばらばらになってしまいましたが、そのとき私の書いた報告文をもって、ボートへ戻ったはずの三鷹《みたか》とも、それっきり会いません。そのうちに、私は通風筒《つうふうとう》の前に出ました。私は不図《ふと》思いついて、その中に、もぐりこみました。それが私の幸運だったのです。生命びろいをしたのは、通風筒へもぐりこんだおかげです」
 丸尾の額から、汗が、ぽたぽたと頬をつたわって、流れた。
「私は、通風筒の格子《こうし》をやぶりました。そして、その中をどこまでも奥へはいこんでいったのです。どのくらいそこにいたか、よく覚えていませんが、とにかくかなり永い間を経《へ》て、私は、いきなり船室へひょっこり、顔を出したのです。つまり、船内に開いている別の通風筒の端へ出たのです。私は、やれやれと思いました。ところが、船内も、安心というわけにいかないこと
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