なく、異様な唸《うな》りごえをきいたかと思うと、いきなり暗《やみ》の中から、大きな獣がとびだしてきたのには、胆《きも》をつぶしました。私たちは、死にもの狂いで、獣とたたかいました。しかしこっちは、もうさんざんつかれ切っているところだし、獣の方は腹が減っているものとみえ、ますますあれ狂って、とびついてくるのでした。そのうちに、獣の数は、ますます殖《ふ》えてきました。そしてとうとう仲間の一人――木谷《きたに》が、やられてしまったのです。すると獣は、たおれた木谷にとびついていきました。木谷を助けようと思ったのですが、とても駄目でした。そのときの恐ろしい光景は、今も眼の前に、はっきり見えるようです」
と、丸尾はちょっと言葉を切って、身を慄《ふる》わせた。
「……木谷が野獣にやっつけられたとき、私たちは、わずかの隙《すき》を見出《みいだ》したのです。“今だ、今のうちに安全なところへ避難しなければ……”というので、私たちは、夢中で、船橋へ駈けのぼりました。ところが、ここも駄目だということがわかりました。人間の臭《にお》いをしたって、獣は、後をおいかけて来たのです。私たちは、扉をおさえ、必死になっ
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