が、だんだんと分ってきました。猛獣は、船内にも、うろうろしているのです。私は、廊下へとびだしては、獣に追いかけられました。そのたびに、私は、もっと防衛に都合のよい部屋へいかねば安心できないと思ったのです。そして、とうとう辿《たど》りついたところは、機関室の中でありました」
「ああ、なるほど。君がとびだしてきたのは、機関室の入口だったね」と、古谷局長がいった。
「そうです。あそこは、機関室へ通ずる廊下の出口だったのです。機関室へとびこんでみると、私は、そこに思いがけない、このボルク号の生残りの船員を七名、発見しました。彼等は、負傷と空腹とで、いずれもひどく弱っていました。そうでしょう。彼等は、この機関室へもぐりこんだばかりに、野獣に喰われる生命を助かったのです。しかし、その代り、食料品を取りにいくことも出来ず、もし出れば、すぐさま眼を光らせ鼻をうごめかせている獣に飛びつかれるものですから、やむを得ず、ここに空《す》き腹《ばら》を抱えて、我慢をしていたのです。そのうちに、すっかり疲労と衰弱とが来てしまって、もう一歩もたてなくなったといいます。何しろもうあれから、三週間近くになるそうですから
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