が、
「じゃあ、私がどなってみましょう」そういって貝谷は、大音声《だいおんじょう》をあげ、
「こら、いのちが惜しければ、出てこいというんだ。出てこなければ、鉄砲をぶっぱなすぞ!」
「おいおい貝谷。日本語が、外国人にわかるものか」
「いや、私は大きな声を出すときには、日本語でなくちゃあ、だめなんです」
 そういっているとき、暗《くら》がりの向うから、わーッと、とびだしてきたものがあった。
「ほら、出てきやがった!」
 と局長以下の隊員は、銃をかまえた。怪しい奴なら、ただ一発のもとに撃ちとめるつもりだ。
「おお古谷局長!」暗がりからとびだしてきた相手は、意外にも、日本語で叫んだ。
「だ、だれだッ」
「丸尾です!」
「えっ、丸尾?」
 ぼろぼろのズボンをはいて現れた人間。それはやつれ果《はて》てはいるが、丸尾技士だった。
「おお、丸尾だ。丸尾の幽霊だ。お前は、浮かばれないと見えるな」と、貝谷は叫んだ。
「幽霊? ばかをいうな。おれは、ちゃんと生きているぞ。生きている丸尾だ」
「ははあ、幽霊ではなかったかな、なるほど」
 貝谷は、丸尾の身体を、気味わるげにさわってみて、感心したり、よろこんだり
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