《おちい》って、猛獣に喰われて白骨になるではないか。撃つのはしばらく待て!」
 猛獣は、ものすごい声をあげて咆哮《ほうこう》する。どれもこれも、腹がへっているらしい。この咆哮につれて、檣の下には刻々と猛獣の数が殖《ふ》えてゆく。(ふーん、一体この船には何十頭の猛獣がいるのかしら)と貝谷が、溜息とともに呟いた。檣の下には、今や少くとも九頭か十頭のライオンと豹《ひょう》が集っている。和島丸の船員たちは、檣の上にしがみついたまま生きた色もない。
 貝谷は、積みあげたロップの蔭から、猛獣の動静をじっと見守っている。
 その後で、古谷局長は、しきりに智慧をしぼっていたようであったが、「そうだ、いいことがある!」と叫んで、貝谷の肩を叩いた。
「とにかく、このままでは、猛獣の餌食《えじき》になるばかりだ。おい、貝谷。おれはこれから、船内へ入って、銃かピストルかを探《さが》してくるから、お前はここで頑張っていてくれ」
「なんですって、局長。あなたひとりで船内へ入っては危い!」
「だが、こうなっては、自分の身の危険など考えてはいられない。隊員全体の生命が危いのだから……。後を頼むぞ」というや、局長は走り
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