古谷局長は、短剣を手に、船艙から甲板へ通じる階段をまっしぐらに駈けあがる。
心細い弾丸《たま》
甲板へ出てみると、そこには想像した以上の、たいへんな光景が展開していた。古谷局長のつれてきた二号艇の連中が、檣《マスト》の上に鈴なりになって、しきりに下を向いて喚《わめ》いている。
「あっ、局長。いますいます、猛獣が五六頭います」
「えっ、どこにいる?」
と、いっているところへ、うおーっと一声呻り声をあげて近づいてきた一頭のライオン。
「あっ、危い!」という間もなく、ライオンは局長と貝谷の上をとびこえて、檣の下へ――。
そこには、さっきから五六頭のライオンが入りみだれて、檣にのぼっている和島丸の船員をしきりに狙っている。
「うーむ、これは困った。銃一挺では、どうすることもできない」
と、古谷局長は嘆声《たんせい》を発した。
「でも局長。あと弾丸は五発ありますから、弾丸のあるだけ撃ってみましょう」
貝谷は、もう覚悟をきめていた。
「待て! 五発の弾丸を撃ったあとを考えると、そう簡単に撃つわけにいかないぞ。弾丸がなくなれば、われわれもまた、この汽船の乗組員と同じ運命に陥
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