のうまい船員と、そのほか六名の船員がのりこんだ。こうして二手にわかれて、また海を漂《ただよ》うことにした。
二号艇へのりこんだ古谷局長は、一同をさしずして、艇内の血を洗ったり、僚友の遺骸《いがい》の一部分を片づけたりした。そのうちに太陽はだんだん西の水平線に傾き、大空一杯に、豪快なる夕焼がひろがった。
「どうも、あの雲が気になるね」
などと、いっているうちに、入道雲がくずれだした。それは特別に灰色がかった大きい奴で、下の方が煙のようなものの中に隠れていた。
「おい、一雨《ひとあめ》やってくるぜ。いまぴかりと光ったよ」
「おう、入道雲の中で光ったね。うむ、風が出てきたぞ。これはまたやられるか」
なにしろ助けを呼ぶにも、どこにも一隻の船影さえ見えないのである。櫂を握るにもあてはなし、風浪のまにまに漂ってゆくより外に仕方がない身の上であった。そこへ一時的の雷雨にしろ、飢渇《きかつ》と疲労とに弱っているところを叩かれる身はつらいことであった。
そうこうしているうちに、海は白い波頭を見せて荒れてきた。ぽつり、ぽつりとおちてくる大粒の雨!
やがてあたりは真暗《まっくら》になり、盆《ぼん》
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