「幽霊船」にしてやられたらしいこと、そこには「人間よりおそろしい」何者かがいるらしいことが、おぼろげながら分ったからである。
丸尾の遺書が知れわたると、一号艇の人たちは、破れかかった二号艇の中を、あらためて見なおした。それは惨状のうちにもなにかもっと彼等に役立つことが、ありはしないかとおもったからであった。
「おれは、だんぜんこの仇うちをしなければ腸《はら》が癒《い》えないんだ。幽霊船をみつけ次第、おれはそのうえに飛びのってやる。そして幽霊どもを、これでぶった斬《ぎ》ってやるんだ」
そういって、腰のジャック・ナイフを握りしめる船員もあった。
「おいおい、あれを見ろ。あのとおり、腕をひき裂《さ》きやがった。一度|斬《き》りつけただけでは足りないで、三筋《みすじ》も四筋も斬りつけてある」
「うん、まるでフォークをつきこんで、ひき裂いたようだなあ」
「ああ、猛獣の爪にひき裂かれたようではないか」
船長は、彼等の会話をきいて、ともに涙をのんだ。
二号艇には櫂《かい》がなかったが、一号艇にはぎっしり人がのっていたので、その一部が二号艇にのりうつることにした。
古谷局長と、貝谷という射撃
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