て、「とにかく、幽霊船に近よるな、人間よりも恐ろしい奴がいるぞ、注意しろ――と、こういうわけなんだろう。丸尾は、われわれを助けようがために、こんな身体になるまで頑張ったんだ。なんて勇しい男だろう」
 船長は、おもわず感嘆のこえを放ったが、それは他の二十三名の乗組員だれもの想いでもあった。
 それはそれでいいとして、その次に、この二十四人の生残りの船員たちをひどく脅《おびや》かすものが残っていた。“人間よりも恐ろしい!”という文句が、一体なにをさしていっているかということであった。
 幽霊船だから、人間より恐ろしい奴というのは、幽霊のことなのであろうか。いやいや、幽霊などというものはこの世にないと聞いている。第一幽霊が無電などをうつであろうか。だがこの奇怪きわまる光景をながめていると、おしまいにはこれを超人的な幽霊の仕業とでもしなければ、説明がつかなかった。


   幽霊船現わる


 無電技士丸尾の遺書は、あまりに簡単であったため、二号艇に乗組んでいた二十何名かの船員の最期《さいご》を語りつくしていたとはいえなかった。
 だが、まったく遺書がない場合よりも、はるかによかった。すなわち
前へ 次へ
全68ページ中36ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング