かから、気になるその手首をそっとすくいあげた。そしてそのまま手もとへひきよせたのである。
「うむ、やっぱりそうだった」
局長の眼が光った。彼は佐伯船長の方をむいて叫んだ。
「船長、これを見てください。この手首は、なにか手紙らしいものをしっかと握っています」
「おおそうか。こっちへよこせ」
船長は、局長と二人がかりで、その手首がつかんでいる手紙のようなものをひき離した。それはたしかに手紙だった。手帳を破ってそのうえに走《はし》り書《がき》にしたためたものであった。手首がとんでも、なおしっかり握りしめていたその手紙というのには、一体何が書いてあったろうか。
「おお、これは丸尾が書いたものだ」
船長が、びっくりしたようにいった。
「うむ、これはたいへんなことが書いてある。――“「幽霊船』ニチカヨルナ。ワレラハ”ちえっ残念! そのあとが破れていて分らない。次の行になって“ハ、人間ヨリモ恐ロシイ”で、またあとが切れている」
幽霊船に近よるな、吾等《われら》は……? 人間よりもおそろしい……? ――これが、丸尾技士の遺書だった。
「さあ、どういう意味だかよくわからないが、――」と船長はいっ
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