をひっくりかえしたような豪雨となった。それに交《まじ》って、どろんどろんと地軸もさけんばかりに雷鳴はとどろく。
「おい離れるな」
「おう、舵《かじ》をとられるな」
二艘のボートは、たがいに必死のこえで叫びあう。どこが海だか空だか分らない。そのときだった。
「あっ、幽霊船が通る!」
「えっ、幽霊船!」
灰色の壁のような雨脚の中に、一隻の巨船が音もなく滑ってゆく。二三百メートルの近くであった。まさしく幽霊船だ!
逃がすな幽霊船
幽霊船にゆきあうのは、これで幾度目であろうか。たしか和島丸が撃沈せられて、一同が四艘のボートに乗じて海上へのがれたとき、この幽霊船がとおった。それからこれで二度目である。
はじめのときは、幽霊船に一発弾丸をおくってみただけで、そのままなにもしなかった。だが、きょうは幽霊船を別な目でみる!
なぜといって、行方不明《ゆくえふめい》になった丸尾無電技士の手首が発見され、その掌《て》の中に、ただごとではない手紙が握られていたのである。ことに“幽霊船に近よるな”とあるからには、この幽霊船は丸尾たち元の二号艇の乗組員に対して、なにかおそろしい危害を加えた
前へ
次へ
全68ページ中39ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング