うな」
 船長は、ため息をついた。
「さあ、助かるには助かって、どこかに漂流しているんだとはおもいますが……」
 局長はそういったが、しかしそれはなにも自信があっていったことではなかった。
 ボートは西へ西へと流れていた。どうやら潮流《ちょうりゅう》のうえにのっているらしい。
「おい古谷君、無電装置を持ってこなかったかね」
 と船長がきいた。
「はあ、持って来たことには来たんですけれど、駄目なんです。ゆうべ、ボートの中が水浸《みずびた》しになって、絶縁《ぜつえん》がすっかり駄目になりました。はなはだ残念です」
「ふうむ、そいつは惜しいことをした」
 船長は眼を洋上にむけた。
 そのうちどこからか、汽船が通りあわすかもしれない。だがそれは運次第であって、そんなものを期待していてはいけないのであった。確《かく》たる今後の方針をどうするか、それをきめて置かなければならない。
 そのころ、乗組員たちが、ぼつぼつ起きてきた。
「ああ夢だったか。俺はまだ風浪と闘っている気がしていたが……」
 風浪は凪《な》いだ。だが風浪よりもわるいものが、彼等を待っているのだ。
 それは飢《うえ》と渇《かつ》とで
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