、睡眠をむさぼる。
 船長も、いつの間にか深い睡りにおちていた。が、彼は一時間もするとぱっと眼をさました。
「やっ、不覚にも睡ってしまった。こいつはいけない」
 船長は眼をこすりながら、艇内を見まわした。誰も彼も死人のような顔をしている。
 空は、うすぐもりだ。まだ天候回復とまではゆかない。だから油断は禁物である。
「そうだ。他のボートはどうしたろう」
 船長は、眼をぱちぱちさせながら、洋上をぐるっと見わたした。だが求めるボートの影は、どこにも見えなかった。
「おい、古谷君起きろ!」
 船長は、傍《そば》に仆《たお》れている無電局長の身体をゆすぶった。
 局長は、びっくりして跳《は》ね起《お》きた。
「おい、とうとう他のボートとはぐれてしまったらしい、それとも君には見えるかね」
「えっ、他のボートが見えないのですか。三隻《さんせき》とも見えませんか」
 局長はおどろいたらしい。船長が望遠鏡をわたすと、彼はそれを眼にあてて、水平線をいくども見まわした。
「どうだ、見えるか」
 局長は、それに対して返事もせず、その代りに望遠鏡を眼から放して、首を左右にふった。
「どこへいってしまったんだろ
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