わぬようにして夜明けをまつことにしよう。他のボートへ、それを知らせてくれ」
 船長の言葉に従って、古谷局長はすぐに信号灯をふって他のボートへ信号をおくった。
 その信号は、どうやらこうやら、他のボートへも通じたらしかった。
 それを合図のように、洋上をふきまくる風は一層はげしさを加えた。どーんと、すごい物音とともに、潮がざざーっと頭のうえから滝のように落ちてくる。
「おい、手の空《あ》いている者は、水をかい出せ。ぐずぐずしているとボートはひっくりかえるぞ」
 船長はぬかりなく命令をくだした。
 生か死か。ボートの乗組員は、いまや全身の力を傾けて風浪と闘うのであった。


   死んだような洋上


 乗組員の死闘は、夜明までつづいた。
 さすがの風浪も、乗組員のねばりづよさに敬意を表したものか、東の空が白むとともに、だんだんと勢いをよわめていった。そして夜が明けはなたれた頃には、風も浪《なみ》も、まるで嘘のように穏やかにおさまっていた。
「おう、助かったぞ」
 乗組員は、安心の色をうかべると、そのままごろりと横になった。俄《にわ》かに睡魔《すいま》がやってきた。みんな死んだようになって
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