だ目にあわなければならない。
「まあ待て。決して撃つな」
船長は、はやる船員をおさえた。そのとき第二号のボートが船長ののっている第一号艇にちかづいて、しきりに信号灯をふっている。
「船長、第二号艇から信号です」
「おお、なんだ」
「無電技士の丸尾からの報告です。さっき彼は檣《マスト》のうえから探照灯で洋上をさがしたところ、附近海上に一艘の貨物船らし無灯の船を発見した。その船が今左舷向こうを通るというのです」
「そうか。分かったと返事をしろ」
船長は大きく肯《うなず》いた。怪しい船だ。船長は、なおもじっと、通りすぎようとする青白い怪船のぼんやりした形を見守っていたが、なに思ったか、
「おい、小銃を持っているのは貝谷《かいたに》だったな」
「はい、貝谷です」
「よし貝谷。かまうことはないからあの船へ一発だけ小銃をうってみろ。吃水《きっすい》よりすこし上の船腹を狙《ねら》うんだ」
「はい、心得ました」
しばらくすると、どーんと銃声一発|汐風《しおかぜ》ふく暗い洋上の空気をゆりうごかした。射程《しゃてい》はわずかに百メートルぐらいだから、見事に命中である。
船長はじっと怪船の方をみつめ
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