あっ、船が! 大きな船が通る」
「えっ、大きな船が通るって、それはどこだ?」
「あそこだ。あそこといっても見えないかもしれないが、左舷前方《さげんぜんぽう》だ」
「えっ、左舷前方か」
 一同は、その方をふりかえった。なるほど暗い海上を、船体を青白く光らせた船の形のようなものが、すーうと通りすぎようとしている。
「あっ、あれか。かなり大きな船じゃないか。呼ぼうや」
「待て。うっかりしたことはするな。第一あの船を見ろ。無灯で通っているじゃないか。あれじゃないかなあ。和島丸へ魚雷をぶっぱなしたのは」
「ふん、そうかもしれない。すると、うっかり呼べないや」


   火花《ひばな》する船腹《せんぷく》


 佐伯船長も、おどろく眼で、その青白く光る怪船をじっと見つめていた。
 ふしぎな船もあるものだ。まるで幽霊船が通っているとしか見えない。
「船長、試《こころ》みにあの船を撃《う》ってみてはどうでしょうか。ここに一挺《いっちょう》小銃を持ってきています」
 小銃で幽霊船を撃ってみるか。それもいいだろう。しかし万一あれが本当の幽霊船でなく、どこかの軍艦ででもあったとしたら、そのときはこっちはとん
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