っちの無電は、たしかに電波を出しているのだろうね」
「それは心配ありません。なにしろ打電している時間が短いものですからそれで返事が得られなかったものと思われます」
「ふーむ」
 このうえは、救難信号をききつけたどこかの汽船が、一刻もはやくこの地点に助けに来てくれるのをまつより外はない。さっきまでは、こっちが遭難船を助けに急いだのに、今はその逆になって、こっちが助けを呼ぶ身となった。なんという逆転だろう。
「おい古谷局長」しばらくして、船長はふたたび局長をよんだ。
「はあ、ここに居ります」
「さっき本船から無電したとき、本船が魚雷《ぎょらい》に見舞われたことを打電したかね」
「はあ、それは本社宛の電報に、とりあえず報告しておきました。銚子局《ちょうしきょく》を経て、本社へ届くことでしょう」
「そうか。それはよかった」
 船長の声が、暗闇の中に消えた。洋上は、すこし風が出てきた。舷《ふなばた》から、波がしきりにぱしゃんぱしゃんと、しぶきをあげてとびこむ。
「さあ、元気を出して漕ぐんだ。あと二時間もすれば、夜が白むだろう」
 事務長は、大きなこえで、一同に元気をつけた。そのときであった。

前へ 次へ
全68ページ中17ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
海野 十三 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング