あろう。水柱が夜目にも、ぼーっとうすあかるく立って、ボート上の船員たちの胸をかきみだした。
 なにゆえの無警告の撃沈であろう。
 暗さは暗し、なに者の仕業だか、一向《いっこう》にわからない。佐伯船長は、第一号のボートにのってじっと唇をかんでいた。
「船長、ボートは全部無事です。第一、第二、第三、第四の順序にずっとならびました」
 事務長が、暗がりのなかから報告した。さっきから、ボートのうえで手提信号灯《てさげしんごうとう》がうちふられていたが、全部のボートが無事勢ぞろいをしたことを伝えたものであろう。
「そうか。では前進。針路は真東《まひがし》だ」
 えいえいのかけごえもいさましく、四艘《よんそう》のボートは、暗い海上をこぎだした。
「おい古谷局長」
 船長が、無線局長をよんだ。
「はあ、ここに居ります」
 古谷局長も、いまは一本のオールを握って、一生けんめいに漕《こ》いでいる。
「本船の救難信号は、無電で出したろうね」
「はあ、最後まで正味《しょうみ》三分間はありましたろう。その間、頑張って打電しました」
「どこからか応答はなかったかね」
「それが残念にも、一つもないので――」
「こ
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