ていたが、弾丸《たま》が怪船の船腹に命中してぱっと火花が散ったのを認めた。
「ははあ、そうか。幽霊船だと思ったが、弾丸があたって火花が出るようでは、やはり本物の鉄板を張った船なんだ。じゃあ、今にあの船は、騒ぎだすだろう。おいみんな、油断するな」
 船長は声をはげましていった。だが、ボートから撃たれた怪船は、しーんとしずまりかえって、今や前方をすーっと通りすぎてゆく。
「これはへんだな」と、船長は小首をかしげた。船長の考えでは、小銃でうたれたのだからいくら寝坊でも甲板へとびあがってきて、こっちへむいて騒ぐだろうと思ったのに、それがすっかりあてはずれになった。彼は思いきって、次の決心をしなければならなかった。
「おい、貝谷居るか」
「はい、居りますよ。もっと撃ちますか」
「うん、撃て。私が号令をかけるごとに一発ずつ撃って見ろ。狙いどころは、さっきとおなじところだ」
「よし。ではいいか。一発撃て!」
 どーんと、はげしい銃声だ。弾丸はかーんと船腹にあたってまたちかっ[#「ちかっ」に傍点]と火花がでた。だが青白い怪船は、やはり林のようにしずかであった。
「もう一発だ。撃て!」
 そうして三発の
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