チニオ四十五世の下に集っている行者団のことを述べたので、かなり実感のある話として聴衆の胸にひびいた。
 舞台には、このとき聖壇《せいだん》が設けられた。白い布で被《おお》い、うしろには衝立《ついたて》がおかれ、それには奇怪なる刺繍絵《ししゅうえ》がかけられた。これは治明博士があちらで手に入れたもので、多分イランあたりで作られたらしい豪華なものである。それからその前に、法王の椅子が置かれた。
 そのとき舞台の裏で、奇妙な調子の楽器が奏しはじめられた。東洋風の管楽器の集合のようであった。それは音色《ねいろ》が高からず低からず、そしてしずかに続いてやむことがなく、聴きいっているうちにだんだん自分のたましいがぬけ出していくような不安さえ湧いて来るのであった。
 いったん退場した治明博士が、再び舞台へ現われた。しずかな足取り、敬虔《けいけん》な面持で歩をはこんでいる。と、そのあとから聖者レザール氏の長身が現われた。僧正服《そうじょうふく》とアラビア人の服とをごっちゃにしたような寛衣《かんい》をひっかけ、頭部には白いきれをすっぽりかぶり、粛々《しゅくしゅく》と進んで、聖壇にのぼり、椅子に腰を下ろし
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